2017年9月20日水曜日

17.02.10 韓国映像資料院『アシュラ』上映後対談 [1/3]

2017年2月10日 【シネマテークKOFAが注目した2016年韓国映画】
『アシュラ』上映後 キム・ソンス監督 + チュ・ソンチョルCine21編集長 対談

*この対談には、映画のネタバレを含む内容があります。
*キム・ソンス監督の発言はなるべく忠実に訳そうと努めましたが、
 司会者や質問者の発言、細かいやり取りなどは
 省略、編集している場合があります。

『キム・ソンスは映画の神だ!』
歓声を浴びながら登壇したキム・ソンス監督
(ファンからもらったスローガンを手に取り)
「可笑しすぎます」

チュ・ソンチョル Cine21編集長(以下 司会) 資料院にて何回も特別なGVを経験していますが、こんな雰囲気は初めてです。不慣れな雰囲気…妙な気分ですが、良い気分です。映画は楽しんで頂けましたね?(はい!)何回もご覧になられた方々もたくさんおいでだと思いますが、私は今日、4回目の鑑賞でした。(歓声+少しの揶揄)アスリアンというには足りない回数ですが…観るたびに新しい発見をする映画というよりは、私には最初に観たときから、ひたすら完璧な映画でした。(そのとおりです!)(毎回新しい!)それで実は今日、とても多いファンの方々がいらしてますし、私がどんな質問をするのか鋭く批評されると思いますが、とにかく今日、楽しい時間になれればと願っています。

新しい年を迎えましたね。去年の貸切上映、私は行けませんでしたが、あのときすごく…動画は見ています。その年を経たご感想はいかがでしょう。去年、本当にたくさんの愛を受けて…

キム・ソンス監督(以下 監督)(笑ってしばらく無言)『アシュラ』は…私にとっては、あまりにもやりたかった映画でしたので、作った後、私個人の満足度は非常に高かったのですが、映画が上手くいかなかったので、(悲しみの声)すごく憂鬱だったのですが、アスリアンの方々と一緒だった、【アンナム市民の夜】というあの上映会が、私にとっては…あぁ、生きているとこんなふうに、幸せな日もあるのだな。(歓声)私にとってはすごく…私の人生に衝撃を与えた日であり、とても嬉しい日でした。それが『アシュラ』において、最も嬉しかった日です。

ですが、『アシュラ』はやはり、映画を気に入って下さった方々の事を除けば…アシュラは憂鬱な記憶だったため、年を越しながら、早く忘れて新しい映画に取り掛かろうと思っていたのですが、今日、この場に来て…先ほど途中から観ようと、入ろうとしたのですが、外でアンナム市民の夜のときに会ったアスリアンの方々に会いまして、おしゃべりをしていたら入ってこれませんでした。(笑)アスリアンの方々もおられますし、そうでない方もいらしてると思いますが、映画を観に来て下さり、本当にありがとうございます。(歓声と拍手)

司会 監督が毎回、興行が上手くいかなかったとおっしゃる場面を見てきましたが、僕が数字を変えることはできませんが、僕なりに申し上げますと、去年、僕はVIP試写会で初めて『アシュラ』を観ました。僕は一般試写を逃した場合、VIP試写会で韓国映画を観ることがありますが、映画が終わって、僕が最後の打ち上げにまで残っていたことは…実に5~6年ぶりだった気がします。ご存知と思いますが、VIP試写は関係者の方々や監督がおられるので、否応なくその映画について話を交わすことになります。どう思った?演技はどうだった?と聞かれたり…正直特に…良いことを言えなさそうだ。または、心にもないことを言ってしまいそうだと思うと、そっと席を外したりしますが、その日は、本当に心から「映画が本当によかったです」「こうこうでよかったです」と、是非とも申し上げたくて、打ち上げに行ったんです。

ところが、僕にはそれができませんでした。なぜなら、すでに監督は周りの他の仲間、後輩の監督や俳優に囲まれて、僕は近づくことすらできなかったのです。それほどまでに、その日は、何というか…最近、ここまで多くの後輩、若い監督と俳優達が…他の映画の俳優達がです。俳優達が来て、その映画について語り、監督と一言でも多く話そうとする席があっただろうか。居合わせた他の人達も驚いていました。そこにいた人達は、キム・ソンス監督がこんなにも若い感覚、新しい感覚で戻ってきて、多くの人達の期待を満たしてくれたのだから、監督は興行成績が悪かったとおっしゃいますが、ここにいる方々が次回作に協力するだろうと、早く次回作に取り掛かれそうだという、確信を得た時間でした。

監督 いや…その日、そうだったからこそ、私は勘違いをしたように思います。映画が上手くいくだろうと勘違いを…なぜなら、私も映画を何本か作りましたが、同じ仲間の映画人達、特に若い後輩の監督やスタッフ、俳優達から、こうも熱狂的な賞賛や擁護を受けたことがなかったために、映画が上手くいくだろうと思ったのですが、いざ映画が公開されるとき、批評もそうでしたし、一般観客の評価も、あまりにも悪く…それで私は、少しの間、短い夢を見ていたような気がします。上手くいくだろうと。それが泡と帰し、(嘆きの声)私達の映画に参加した他の方々、ここに投資をしたCJの方も、〇〇さんと△△さんもおられますが、その方々も、失望させることになりました。でも、このように好いて下さる方々がおられますから大丈夫です。(拍手)(CJは投資の神だ~)

司会 こういうことを申し上げることもできそうです。ここにこういうものを用意してきている方々が、僕には…ツイッターでもたくさんお目にかかってますが…(客席笑)既存の他の韓国映画や外国映画で満足を得られない方々だろうと僕は思っています。いま何人か思い出しています。皆さんが普段呟いていることを僕は全部読んでいます。(どよめき)映画に対する愛情をこのように表し、『アシュラ』の細部にまで言及している文章を見ますと、僕は…こう表現していいか分かりませんが、とてつもない方々と言いましょうか、そのような趣向をお持ちの方々だろうと思いますが、そんな方々がこうして熱狂的に支持するということ自体が僕には…僕がこの映画を初めて観たその瞬間、あっ、これは僕の今年の映画だ、と信じた瞬間が、少しばかり報われたような…僕は本当に、Cine21年末決算のときに1位に選びましたので、(歓声と拍手)(映画雑誌の神だ)(司会笑)それだけ覚えていただいて、興行については、次回作でまた…

監督 Cine21の記者の方々は…アシュラを好ましく思っておられない方も大勢います。大勢いますが、私が最も重要だと考えた方は、こちらのチュ・ソンチョル編集長です。(祝う声)これでいいのです。それで、その…もう一度、大きくお願いします。(Cine21は映画雑誌の神だ!)(拍手喝采)映画のパク・ソンベに対して、OUTという服を着ていらした方々…本当にありがとうございます。(客席笑)格好いいです。(拍手)

司会 実は今日、チョン・ウソン…演技の神、チョン・ウソンさんが最初は来ることになっていたのですが…残念です。チョン・ウソン俳優は、僕も大ファンですのでお話しさせていただきますが、どのような快感があったかといいますと、こちらにお見えの方々は少々…僕からすると若い方々が多くお見えですので、『ビート』という作品を生涯ベストに挙げるような方は…(『ビート』映画館で観ました!)(僕には夢がなかった)(未成年だったけど観た!)(歓声)…それが僕にどんな快感と妙な感情を与えてくれたかといいますと、名高い大物俳優の方々、ソン・ガンホ、ソル・ギョング、チェ・ミンシク、ハン・ソッキュといった方々は、元々最初に登場したときからオッサンでした。ですよね?

『アシュラ』に出てくるクァク・ドウォンさんやファン・ジョンミンさんも、最初に出てきたときから、すでにオッサンでした。僕達は彼らの青春時代の姿を知りません。ところが『ビート』のチョン・ウソンが…20年を経て『アシュラ』に、あのような姿で登場しているのを見ると、本当にこみ上げてくる何かがあるのです。今でもこみ上げてきてます…(客席笑)言うなればこういうことです。韓国映画界で、そのような姿を見せてくれた俳優は、アン・ソンギ俳優の外にはいません。若い姿を見せて、年老いていく姿を見せながら観客と共に進むケースがないのですが、そのアン・ソンギを継いだ俳優が、実はチョン・ウソン俳優です。

それで『ビート』から20年後の『アシュラ』に登場した、傷ついた顔を見る気分は、本当に妙な感覚です。海外で例えるなら、ジャック・ニコルソンのような俳優が若い頃『イージー・ライダー』に出演して、『イージー・ライダー』から20年後が『シャイニング』です。あるいはチョン・ウソン俳優の『シャイニング』のような作品といえそうです。ところがジャック・ニコルソンがさらに年老いて、『恋愛小説家』だとか、『アバウト・シュミット』のような作品を、彼と一緒に老いながら観ていく感覚がありますが、そのような感覚を非常に良い形で与えてくれて、僕はチョン・ウソン俳優への感謝に堪えません。ああ、あの俳優が成長していく過程を、観客として観ることができて嬉しい。その感覚が得られたのです。いらっしゃらなくて残念ですが…

監督 チョン・ウソンのせいで…今日たくさんいらしたんですかね?(笑)*初公表時はゲストに記載があったが、後に削除 (違いま~す!)(キム・ソンスのせいで来た!)(映画の神だ!)

司会 こういったことは何度も申し上げていますが、キム・ソンス監督がもっと適切にお話ししてくださるだろうと…

監督 まずチョン・ウソンは、来ることになっていたのが、撮影スケジュールのせいで来られませんでしたが、私に3回ほど電話をしてきました。「行くべきじゃないのか」と何回も…いま釜山にいますが、いまとても重要な作品を撮っていますし、方言を使う北朝鮮軍…方言を習うのが大変なようです。撮影日程を変えてまで来るのは望ましくないですから。皆さんにこれだけは伝えてほしいと言っていました。自分はいま釜山にいるが、一緒にいるのだと。(歓声)(演技の神だ!)私は…このシナリオを最初に書き上げたときは、周りの人達も好意的に見てくれませんでしたが、ハン・ドギョン役をチョン・ウソンがやることについては…チョン・ウソンがそんな役をやることを観客がどう受け止めるだろう…あえてこれをやる必要があるのか。こんな話をよく耳にしました。そして、シナリオが完成する前に、チョン・ウソン氏がやると言ってくれていましたが、いざ初稿を見せてやると、チョン・ウソンが何と言ったかといいますと、「兄さん、これ、何ですか?」(客席笑)「変か?」と聞き返すと、自分が今まで見たシナリオの主人公達とはあまりにも違うので…自分に上手くできるのか?自分がやればどう受け止められるか心配だと…

周りの人々やチョン・ウソン氏本人もそう言ったのですが、私は…私とハン・ジェドク代表が、執拗に、必ずチョン・ウソンがやるべきだと考えた理由は…自分のやりたかった映画だったので、自分の映画の延長線で考えたのです。『ビート』や『太陽はない』のときに、10代、20代の、やや社会のアウトサイダーである青年達、既成社会を嫌い、それに取り込まれることを望まない、先ほどおっしゃったように「僕には夢がなかった」というようなことを話す、そんな若者が、結局は、歳月のトンネルを抜けて、彼が嫌っていた、その社会の一員となり、自分が嫌い、憎んでいた大人の中でも取り分け嫌悪すべき人物となって生きる姿を見せるべきであり…そして、それがチョン・ウソンであるならば…ああ、あの青年が、成長して20年が経って暮らしているあの社会は、あのアンナムという都市は、誰もが悪の巨大な根っこに絡め取られて生きているのだな。という感想を与えるだろうと思ったのです。もちろん、私の勘違いだったのか、正しかったかどうか分かりませんが、それで私は、必ずチョン・ウソン氏がやるべきだと思っていました。

司会 『太陽はない』を初めて観たとき…僕のみならずファン達がショックを受けたのは、チョン・ウソン俳優の顔をあんなふうに傷つけていいのか…ボクサーではありますが。ところが今回の映画は本当にひどいでしょう。それをリアルに見せてくれているのが、ト・チャンハクが毛布を被せておいて、本当に長く殴るでしょう?それをあんなに長く見せることに衝撃を受けるほどに…なぜこんなに長く見せるんだ…と思わずにはいられませんでした。既存のチョン・ウソンというものを完全に壊す行為ということも、少し表現しているカット構成だと思いました。あるいは、韓国映画界で、チョン・ウソン俳優の顔を好き勝手にできる唯一の権限をお持ちの方だとも思いましたし、(客席笑)そうして傷ついた顔で最後の葬儀場に登場すべきだとお考えになったようですが、そのことについてお伺いします。

監督 こちらにおいでの方々は、サナイ・ピクチャーズのハン・ジェドク代表の写真を見たことがあるでしょうか。最初の目標は、チョン・ウソンの顔をハン・ジェドクのように見えるようにしよう。でした。(感嘆と歓声)私達はチョン・ウソン氏の顔に1時間ほどメイクを施しましたが、それは、ブサイクに見せるメイクでした。(感嘆)(ハン・ドギョンはブサイクです!)(客席笑)チョン・ウソン氏は元々美容に気を使う人ではありませんが…彼も幼い頃には少々環境が険しかったので、顔にいくつか傷があります。映画やCMを撮るときは傷がある部分を隠すメイクを施しますが、今回の映画では、チョン・ウソン氏の顔の少しでも傷がある部分を、増大させ、それがとても古い傷に見えるように拡張させる、そういったメイクを施しました。そんなメイクをナチュラルに施した後、映画が始まってから徐々に顔の傷が増えていく…苦境に陥った男が、苦境を避けようとしてさらに大きな苦境に陥る…そういったお話でしたので…チョン・ウソンという名前と顔に何らかのメタファーがあると考えました。それを…破壊しようとしたといいますか。そうやって汚すことが、この映画が歩んでいく道だと思ったのですが…いくら壊しても、顔が…上手く壊れてくれなくて心配でしたね。(笑)

17.02.10 韓国映像資料院『アシュラ』上映後対談 [2/3]へつづく