質問者6 まず、限定版ブルーレイはいつ出るのか気になります。それからラストシーンで、ドギョンが死ぬ前にソンモの元へ這いずっていくでしょう。実は私は、そのシーンを最初に観たときは、ソンモの元へ向かってることに気づきませんでした。後でまた観て、シナリオも読んで気づいたのですが、ドギョンがなぜ、あえてそのときソンモに近づこうとしたのかを…「私が殺しました」と言うところを見ると、そこまで情が深かったようにも思えないのですが…その理由が知りたいです。
監督 ドギョンがソンモを「私が殺しました」というのは、ソンモを殺したことをやましく思っていないとか、あいつのことが嫌いだから殺したとか、そういった意味ではないと思います。そんな意味の台詞ではなく…パク・ソンベがその中で繰り広げている行いが、もっての他すぎたので、ああ、そうだよ。俺が殺したよ。と言うニュアンスの方が強いわけで、ソンモに対して悪感情があったのではなく、ソンモに対する申し訳なさもあり…それに…ドギョンがそこで這いずっていくなら、死にゆく立場なわけでしょう。ただまあ、知っている人の方へ、進むのではないかと。(客席爆笑と歓声)隣にはパク・ソンベもいれば、ト・チャンハク、キム・チャインがいるのですから、やはり、そいつらの隣で倒れるのは…不服だったろうと。そう思います。
質問者7 アンナム市民の夜のときにお会いして、2回目にお会いできて嬉しいです。映画『アシュラ』を作って下さいまして、本当にありがとうございます。アンナム市民の中には、チャ・スンミというキャラクターに対する愛情が深い人が大勢います。これまでの話では、他のキャラクターや俳優達に比べて、話題になっていないように思えまして、実は12月31日、2016年の大晦日に、アンナム市民達が○○○という漫画カフェに集まり、除夜の鐘の代わりにアシュラの鐘というイベントを…
監督 (笑いを堪えて)さっき、ある方に見せてもらいました。(会場笑)
質問者7 そのときも、ある方はチャ・スンミと同じ服装を着ていらしたり、それぐらいチャ・スンミというキャラクターの人気が高いです。それから、偶然だとは思いますが、チャ・スンミが何度もドアを開けてくれるシーンが出てくるんです。それでツイッターを見ると、チャ・スンミとドアの関係は何か…(客席笑)監督から、何かしらチャ・スンミというキャラクターについて、私達が『アシュラ』という世界を消費し、楽しむにおいて、少しでも役に立つような「ネタ」を提供して頂けると嬉しいです。
監督 チャ・スンミというキャラクターは、映画で上手く使用できずに、消費した感があって、キャラクターをもっと上手く活かすことができたという心惜しさがあります。そのキャラクターを作り上げることに成功できていないように思います。ですので、私がそれにあえて意味を付与することは、嘘のように思えます。
ただ、シナリオをすべて読み終えて、演出部と話したことは、この中ではチャ・スンミが一番マシな「知力」を持っている。他の人物よりは利口で、正しいことを話し、哀れみの心を持っている。
この映画の人物の間で哀れみの気持ちが発生することはあり得ません。誰一人、誰かに対して同情をかけることがなく、ソンモとドギョンも、自分達の必要に応じて、いくらでも嘘を吐き、背を向けますが、チャ・スンミは、女性だからというのもあるでしょうが、男どもが、くだらん連中が争っているのですから、その中では怪我をした者に関心を示し、手拭いを差し出し、助けようとするのが目立ちます。
それから、あのトラック、葬儀場の外でも、本部に支援を呼べばよかったんです。(客席笑)キム・チャインがそこで…利口な女性が何かを話すと、偉い人が頭ごなしに怒鳴ることがあるでしょう。黙れと。気を散らせるなと。そのような…この映画に登場する男達は耳を傾けませんが、この中では正常なことを話す人というように思っていた気がします。
司会 支援要請をしていれば…こうなってはいませんでしたね。(客席笑)そのシーンについても、Cine21でアスリアン特集を組むときに参席してくださった方が、あのとき支援要請をしていれば皆助かったろうにと…
監督 キム・チャインが隠し持つ録音機も、チャ・スンミのアイデアですよね。キム・チャインはそれをわざわざ取り出して見せびらかします。(客席笑)自分は検事なので、自分には手を出せないと勘違いしたのです。パク・ソンベを舐めたわけです。…パク・ソンベを舐めたらダメです。(一同笑)
(ネクタイは~)(<貸館>の神だ~!)
質問者8 ありがとうございます。
監督 ああ、アンナム市民の夜の…(監督拍手 → 会場拍手)
質問者8 なぜ私に拍手が…とにかく、質問したいことは…ご覧のとおり、アンナム市民連帯だとか、他の映画よりも少しばかり多く、現実との垣根を越える、そういった様相を呈しているのですが、それについてはCine21でも多く話しましたし、色んな記事でも取り上げられていますが、この映画をお作りになった方の立場からすると、これをどう受け止めておられるのか…なぜこうなったとお考えなのか伺いたいですし、個人的には…
監督 アスリアンの方々のことですか?それともアンナム市の…
質問者8 アスリアン達が市民連帯だとかを組んで、光化門に出て行くとか、私達があれやこれやを作るといった行為についてです。それから、私の個人的な質問、というよりも希望ですが、パク・ソンベのプレゼンテーション映像を、どうか、公開して頂ければと…
(拍手と歓声)(D・V・D!D・V・D!)(公開!公開!)
(DVD特典!)(パク・ソンベを舐めたらダメです!)(爆笑)
(何の町ですって?)(金持ちの町!)
(聞こえません、何の町ですって?)
(金持ちの町~!!!!!)
監督 一つ目の質問からお話ししますと、その…なぜこんなことをするのか分かりません。(客席爆笑)唖然としています。最初は、映画が上手くいかなかったので、ほら、見ろ!映画が変だからだろ?と話す人が周りにいました。それで、少し、嘲弄が入り混じった…そういったニュアンスだと誤解していました。(嘆きの声)私の映画はこんな…(監督の視線に対して爆笑)ことになるとは思ってもみませんでしたが、今は悩みに悩んで…先程もアスリアンの方に会いましたが、あの人達どうしたんだ?と思ったり…(客席爆笑)
今はこう思っています。ああ、私は映画を上手く作ったけど、それを分かる人が限られているんだな。(会場拍手と歓声)(映画の神だ!)そう考えると腑に落ちました。とても感謝してますし、まさに家門の栄光です。アスリアンの方々がおられるために、私が次の映画や、これから映画を作るとき、より多く考え、緊張するようになると思います。皆様は私にとって、より多く考えるようにしてくださった貴重な方々だと思います。
それから二つ目は…私が、パク・ソンベのプレゼンテーションに関する映像を………DVDに入れることにいたします。(大歓声と拍手)
(キム・ソンスは!)(映画の神だ!)
その映像のタイトルもいま思いついたのですが…追加映像がいくつかありまして、元々は除外するつもりでしたが…映像のタイトルは、「エッフェル搭の上のアンナム」です。(訳が分からんが、オー!拍手!)
「パク・ソンベの危ういネクタイ」氏(質問者)が壇上に近づき、紅参と賞状を監督に手渡す。
質問者8 黒参がなかったんです…監督、お前にこれが食べられるか分からんが…(会場笑 拍手)
監督 お金まで貰うことになろうとは…(*劇中ではお金も入っていたので)ありがとうございます!…賞をもらったことがないのですが、表彰状をもらいました。感謝します。
(キム・ソンス!)(キム・ソンス!)(キム・ソンス!)
(キム・ソンスは~!)
(映画の神だ~!!!)
(『アシュラ』は~!)
監督 やめろ。
(最高の暴力映画だ~!!)
(一同笑)
司会 監督は最初は嘲弄だと思われたと…少し理解できなくもないですが、(会場爆笑)決してそんなことはないと思います。僕もツイッターでたくさんフォローをして、公開的な活動はしていませんが、全部見ています。僕の知り合いではありませんが、映画について納得のいく話をされる方が大勢おられます。そんな方々をフォローしていたのですが、ある日突然、プロフィール画像とニックネームが…(会場笑)アンナム市なんとかかんとかに…これは映画を観る目がある人達が反応する映画なんだな…普段は他の韓国映画を観て、ここが残念だとか言っていた方々が、急にこうして…おられる姿を見て僕は、僕がこの映画を観て、反応したり、良いと思ったりしたポイントを、共有している人が結構多いな。と思えて、それで最初に、今は考え直しておられますが、僕は最初から決してそんなことはないと思いましたし、多くの人が映画について話してくれて嬉しかったんです。
何人か他の若い監督と話してみると、こんなことを言っていました。ああ、『アシュラ』は本当に口惜しい、と。あるいは、今のキム・ソンス監督は…イ・ヒョンスン監督は最近活動がありませんが、あるいはイ・ジュニク監督、こちらのキム・ソンス監督、ひょっとするとパク・チャヌク監督も、活発に活動されている監督の中では年配といえる方々ですが、適当な作品で損益分岐点辺りのヒットを飛ばし、それに満足するような映画を撮るのではなく、こうして何らかの特別な現象を巻き起こし、独特なファンダムも生み出し、皆に喜ばれるような、そして監督自らも、本当に作りたかった映画で、ご自身の生涯に残る映画だと言われる作品を作り得たことは、後々にも役に立つことではないだろうかと、僕には思えます。
もう一つ申し上げるとすれば、僕が仕事で映画について話すとき、『鳴梁』(邦題:バトル・オーシャン 海上決戦)のチェ・ミンシク、『お嬢さん』のハ・ジョンウ、というように、俳優の名前を用いて映画の話をします。ところが『アシュラ』は、『アシュラ』のハン・ドギョン、『アシュラ』のト・チャンハク、ムン・ソンモ…僕が特定の韓国映画を観て、こうして名前を覚えるケースはめったにありません。それを取ってみても、この映画は僕にとって大きな映画、良い映画なのだなと思わされます。そして、僕がこれまで好きだったジョン・ウー的な、レオーネ的な、ペキンパー的なものを本当に上手く混ぜ合わせて…オ・スンウク監督の表現を借りれば、それらが合わさって、それらをすべて超越してしまった、そんな映画に出会えたことが、僕には、2016年韓国映画界において、個人的にとても貴重で、祝福のような経験でした。一応、国内ではCine21が、良い雑誌のうちに入ると思いますが、その雑誌の編集長がこれほどに…思っていることを、分かって頂けると有難いです。(会場拍手)では、監督の今日の最後のお言葉を…
監督 その…例えば私の世代にとっては、Cine21や、釜山映画祭は…私が映画を作っていなかったとしても…私はCine21や釜山映画祭の中心となるような重要な監督ではありませんが、とても大切な方々であり、大切な映画祭です。私が映画界に入り、映画監督を夢見て、映画監督になる過程で、若い仲間達が映画サークルを作ったりして、映画への夢を育んできましたが、私が助監督を務めた頃は、韓国映画を観る人がいませんでした。
私自身すらも、パク・グァンス監督の助監督を務めていながら、韓国映画を上映する劇場に入るとき、周りに目を配りました。もし私の同僚達に見られやしないかと…なぜなら、「お前、何で韓国映画を観るんだ」と言われるので…当時、韓国映画の占有率は10%足らずでした。それだけ韓国映画が…韓国の観客からも軽視されていた頃でしたが、運の良いことに、私がデビューした頃から韓国映画が韓国の観客達から愛されるようになり、そのとき、Cine21と釜山映画祭が肩を並べていたと記憶しています。
実のところ、多くの人にとって、この両者の影響力が昔ほどではないので、もどかしい思いですが…釜山映画祭は近頃とても多くの困難に直面していますし、それからCine21は…気丈に、韓国映画を精密かつ正確に、そして暖かい愛情を持って覗き込んでくれていますので…Cine21はたくさん読まれるべきです。(会場笑)私も旅行に行くときなどに何冊か買っていきますが、人に与えると喜ばれます。Cine21の編集長が私の映画を応援してくれたからといって、Cine21の他の記者達が『アシュラ』の悪口を言ったからといって、Cine21をより好きになったり、嫌いになったりはしません。本当にCine21が上手くいくことを願います。(会場笑)
今の韓国映画は…かなり危険な状況だと思います。それでも去年、様々な良い映画がありましたが、韓国映画を代表する、パク・チャヌク監督、ナ・ホンジン監督、キム・ジウン監督といったような…監督達は、投資・配給会社が求めるような型にはまった映画を撮ってはいないでしょう?韓国を代表する監督達が型にはまった映画を撮っていないということが、とても素敵だと思います。こちらに『アシュラ』に投資してくださった方々も来ておられますが、その方々すらも同じ考えだろうと思います。何らかの資本の論理によって、映画が裁断されすぎて、一つの方向に進み、観客の機嫌を取ろうとする映画ばかり作られると、結局、観客からそっぽを向かれることになります。私はそんな時代に映画を始めましたので、韓国の人が韓国映画を観ずに貶める時代がいかにおぞましい時代なのかをよく分かっています。そんな時代が訪れることは…本当に、想像したくもありません。
私もまた、ありふれたノワール映画を撮りましたし、先ほど言われたセルジオ・レオーネやペキンパー、黒澤といったような監督達の映画から洗礼を受けていますが、そんな監督達の映画から、何らかのテンプレートを借りてきて映画を撮ると、あまりにも分かりきった映画になりますので、私自身も今の雰囲気に便乗して映画を撮ってはいますが、少しでも違う映画、私の解釈が込められた映画、そして、観客が違った形の快感を覚えることができ、異なる観点で見ることができる映画を作ろうと、私なりには努力したわけです。ところが映画を作ってみると、至らないところが多かったですね。まだまだ及ばないなと…まだ及ばないのか、それとも私に才能が足りていないのに、映画監督をやるという意地を張ってここまで来たのかと思えたりしますが、私はもう引き返せないでしょう?私の年齢もそうですし、私は他のことを…できなくはないでしょうが、やることもないですから…映画に専念すべきです。
ただし、皆さんが心配なさらなくていいことがあります。私と同年代の監督達や映画人達が、まだ映画界に少しばかり残っていますが、その人達は皆さんが考えるように投資者の機嫌を取ったり、千万映画を作ろうという考えに陥っているわけではありません。なぜなら、私がこの歳で千万映画を作ったからといって、私の映画監督としての寿命が延びるでしょうか?絶対に違います。私がいくら千万映画を作っても、あなたは既に、流行りの歌を歌うには老いすぎた。と思われた瞬間から、二度と私に投資しなくなるからです。それは私が映画界に30年以上身を置きながら見てきたことですので、私はむやみに上手く歌えもしないBIGBANGの歌を歌いたいと言ったりしません。そもそも歌えません。
皆さんは、私達のように旬を過ぎた監督達が、何か違うやり方で映画を撮ろうとすることを、アスリアンの皆さんが、こうして、大らかな視線で映画を観てくださっているように、映画界の老いさらばえた人の中にも、ある人々は、何かしら違う解釈と方式で、各々の映画を見せる努力をしていることを、好意的に見て下さり、また、そういった役割をCine21が務めて下さっている。だから私がここまでCine21をおだて上げたのですが、(会場笑)なぜなら、誰かが、そんなふうに見てくれる人がいるという、漠然とした期待がなければ、映画を頑張って作るのは難しいんです。私は栄耀栄華のために映画を始めたのではないですから。幼い頃から映画が好きすぎて、映画の事以外は考えたくもなかったので、若い頃、遠い星に映画の星と銘打って、その星を追ってこれまで歩いてきたのですが、私はパク・チャヌクのように才能に優れた人ではありませんから、あの星をあまりにも長く見ながら歩んできたために、惰性に流されたりもしています。
しかし『アシュラ』は、私なりに、これは私の映画だ。と思って作りました。少ない人数でも、映画をまともに見て下さる方々がいて、やり甲斐を感じますし、こうして映画界に影響力をお持ちの方が、映画を好意的に見て下さって、感謝も覚えています。これからも映画を頑張ります。ありがとうございます。(拍手と歓声)
(キム・ソンスは!)(映画の神だ!)
(キム・ソンスは!!!)(映画の神だ!!!)
(アシュラは!!)(最高の暴力映画だ!!!)
(Cine21は!!)(韓国映画の / 映画雑誌の神だ!)
司会 最後は訓練ができてなくて、調子が…(笑)とにかく、今日は本当にありがとうございます。長い時間をかけてお話ししてくださったキム・ソンス、映画の神に対して、今一度大きな拍手をお願いします。